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オーストラリアワインの基礎徹底ガイド|主な産地やブドウ品種を知ろう!

オーストラリアの地に初めてブドウの木が持ち込まれたのは、1788年のこと。ワインの世界では、紀元前からワイン造りが行われているヨーロッパ諸国が「旧世界(オールドワールド)」と呼ばれているのに対し、オーストラリアをはじめ、アメリカやチリなどの新興生産国は「新世界(ニューワールド)」と呼ばれています。

伝統を守りつつ新しい技術を取り入れ、新世界を牽引してきたオーストラリアワイン。気候特性やブドウ品種、そして主な産地について詳しく紹介します。

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2020/06/07

オーストラリアワインの基礎知識

オーストラリアワインの主な産地

日本のおよそ20倍もの国土を有するオーストラリアでは、主に6つの州でワインが生産されています。

まず1つ目は、アデレードを州都とする南オーストラリア州。オーストラリア全体の半数以上ものワイン生産量を担う国内最大の産地です。2つ目はシドニーを州都とするニュー・サウス・ウェールズ州。オーストラリアワイン発祥の地として名高い歴史ある産地です。さらに3つ目のヴィクトリア州は、フランスのモエ・エ・シャンドン社が設立した「ドメーヌ・シャンドン」があることでも有名です。そして、オーストラリア南西部に位置する西オーストラリア州、北東部に位置し、ブリスベンを首都とするクイーンズランド州は、生産量は少ないながらも高品質なワインを数多く生み出す銘醸地です。最後の6つ目は、オーストラリア大陸の南に浮かぶ自然の宝庫、タスマニア州。冷涼な気候を活かした、上質でエレガントなワインが魅力です。

オーストラリアワインの特徴

産地によって多彩に表情を変えるオーストラリアワインをマスターする上で知っておきたい、気候特性とワイン法について見ていきましょう。

■気候特性

世界で6番目に大きい国土面積を誇るオーストラリアは、熱帯~温帯の気候帯に位置しており、地方によって気候の特徴が異なります。ワイン用ブドウの栽培がさかんに行われている主な産地は南緯30度~40度前後のオーストラリア南部にあたり、ブドウ畑は比較的冷涼な沿岸部に集中しています。

オーストラリア南部だけを見てみると、南オーストラリア州、ニュー・サウス・ウェールズ州、ヴィクトリア州を含む南東部と、西オーストラリア州のある南西部においては、温暖な地中海性気候が特徴的で、水はけのよい石灰質の土壌を有しています。また、オーストラリア大陸の南に浮かぶタスマニア州は、南極海からの風を受ける冷涼な海洋性気候が特徴的で、火山由来の火成岩が主な土壌です。

■地理的呼称(GI)について

GI (Geographic Indications)とは、オーストラリアにおけるワイン法のうちのひとつです。ヨーロッパへのオーストラリアワインの輸出が増加したことを受け、1993年にオーストラリア・ワイン・ブランデー公社によって制定されました。これによりラベルの表示内容への信憑性が確保されています。GIとして登録されている産地であれば、どの産地であってもそこで収穫されたブドウが85%以上含まれていることが基本的な条件で、クリアしたワインだけがラベルへの産地記載を認められています。

GIは、AOCなどといったヨーロッパにおける原産地呼称制度とも似ていますが、ブドウの栽培方法やワインの醸造方法までは細かく規定されていません。そのため比較的自由なワイン生産が可能であり、ヨーロッパの醸造家が新しいスタイルのワイン造りに取り組むためにオーストラリアで拠点を構えるといったケースもあります。

オーストラリアワインの有名なブドウ品種

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赤ワインのブドウ品種

黒ブドウを使い、皮や種も一緒に発酵させて造る赤ワイン。オーストラリアで栽培される主な黒ブドウの品種を、気候や栽培方法、香りなどをポイントにご紹介します。

■シラーズ

オーストラリアを代表する黒ブドウの品種として知られ、国内でもっとも多く栽培されています。フランス・ローヌ地方を原産地とするシラーと同一品種で、オーストラリアでは「シラーズ」と呼ばれます。ブドウは分厚い皮に包まれた小粒サイズで、濃い紫の色味が特徴です。オーストラリアでは温暖で乾燥した気候を活かして栽培されることから、熟した果実味を感じられるのが特徴的。香りはベリー系で、滑らかなタンニン(渋み)を持つ飲みごたえのあるワインに仕上がります。

■カベルネ・ソーヴィニヨン

環境への適応力が高く、フィロキセラといったブドウの病気にも強いことから世界中で広く栽培されるブドウ品種です。小粒で黒っぽく、分厚い皮と大きな種から豊かなタンニンが生まれることから、長期熟成に適しています。オーストラリアのカベルネ・ソーヴィニヨンは濃厚な味わいとミントのような清涼感があり、先述のシラーズとブレンドしたワインも生産されています。

■メルロー

タンニンのもととなる皮が薄く、実の糖度が上がりやすいメルローは、柔らかく丸みのあるワインに仕上がります。ブドウの粒は中程度のサイズで、深みのある紫色が特徴です。プラムやベリー系の香りがあり、高品質なメルローのワインからはまるでシルクのように滑らかな舌触りを楽しむことができます。オーストラリアではメルロー単体で醸造されるほか、カベルネ・ソーヴィニヨンとブレンドされることもあります。

白ワインのブドウ品種

主に白ブドウを使い、果汁だけを発酵させてできる白ワイン。オーストラリアで栽培される主な白ブドウの品種を、気候や栽培方法、香りなどをポイントにご紹介します。

■シャルドネ

「白ワインの女王」とも謳われるシャルドネは、オーストラリアでもっとも多く栽培される白ブドウです。ブドウの粒は小さめで皮が薄く、気候や醸造の方法によって多彩に表情を変えます。そのため産地や造り手の個性を発揮しやすく、オーストラリアの冷涼な産地では爽やかな柑橘系の風味、一方で温暖な産地ではトロピカルフルーツ系の香りと濃厚な味わいを感じることができます。

■ソーヴィニヨン・ブラン

フランス語の「ソヴァージュ(野生的な)」が語源になったといわれる個性的なブドウ品種。グレープフルーツやハーブを思わせる風味を持ち、フレッシュで爽やかな印象のワインに仕上がります。ブドウは粒が小さく透明感のある緑色をしていますが、温暖な産地では黄金色のブドウも見られます。

■セミヨン

ブドウが若いうちはあまり特徴を持たないため、ソーヴィニヨン・ブランとブレンドされるのが一般的ですが、貴腐菌をつけて長期熟成させると甘口でコクのある「貴腐ワイン」に仕上がります。ブドウの粒は大きめで、明るい黄緑色をしています。オーストラリアではセミヨン100%で醸造される「ハンター・セミヨン」と呼ばれる辛口ワインが有名であるほか、シャルドネとブレンドされることもあります。

オーストラリアワインの代表的産地の特徴

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南オーストラリア州

オーストラリア全体のおよそ半数ものワイン生産量を担う、国内最大のワイン生産地。1830年代にヨーロッパからの移民がこの地にブドウの木を持ち込んだことからワイン造りが始まり、今では州都アデレードを取り囲むようにブドウ畑が広がる銘醸地となりました。「ペンフォールズ」「ジェイコブス・クリーク」といった世界的に有名な大手ワインメーカーが本社を構え、国内への流通だけでなく輸出にも力を入れています

■バロッサ・バレー

アデレードから北に70kmほどの場所にあるバロッサ・バレーは、黒ブドウ品種のシラーズの主要産地であることから“シラーズの首都”と謳われ、世界でもっとも古いシラーズのブドウ樹木があることでも有名です。この地の地形がドイツのワイン銘醸地であるライン川流域に似ていることからブドウの栽培が始まったといわれ、現在ではおよそ150のワイナリーが集まる銘醸地となっています。

バロッサ・バレーでは、テーブルワインのほかにも、醸造過程でアルコール(酒精)を添加して造る「酒精強化ワイン」が生産されています。

■イーデン・バレー

バロッサ・バレーから見て東に位置するイーデン・バレーは、標高が約400~500mと高く比較的冷涼で、ドイツのライン川流域を原産地とする白ブドウ品種、リースリングの銘醸地として知られています。標高の低い場所ではシラーズの栽培も行われており、樹齢150年にもなるシラーズの古樹から造られる希少なワイン「ヘンチキ・ヒル・オブ・グレース」は、オーストラリア最高峰のシラーズと賞賛されています。

■アデレード・ヒルズ

アデレードから東に10kmほどの場所にあるマウント・ロフティ山脈に広がる産地。標高は400~700mと高く、冷涼な気候を活かしてピノ・ノワールやシラーズ、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランといったブドウ品種が栽培されています。スパークリングワインやナチュラルワインが醸造されているのも、アデレード・ヒルズの特徴です。

■クレア・バレー

オーストラリア随一のリースリング生産地として名高いクレア・バレーは、アデレードから北に120kmほどの場所にあります。アデレード・バレーと同じくマウント・ロフティ山脈に位置しており、牧歌的な美しい景観が広がります。クレア・バレーでは、ワインを劣化から防ぐ効果のあるスクリューキャップがオーストラリア全国に先駆けて導入されたワイン生産地として有名です。

ニュー・サウス・ウェールズ州

オーストラリアワイン発祥の地として知られるニュー・サウス・ウェールズ州。1788年、イギリス海軍でニュー・サウス・ウェールズ州の初代総督を務めたアーサー・フィリップ大佐が、シドニーにワイン用のブドウ樹木を持ち込んだのが始まりといわれています。その後1825年にはジェームズ・バズビーがハンター・バレーでブドウ園を開設し、ワインの生産が広まりました。

■ハンター・バレー

シドニーから北に約150kmの場所に広がる、オーストラリア最古のワイン生産地。セミヨン100%で醸造された辛口白ワイン「ハンター・セミヨン」が特に有名で、アルコール度数が低く軽めの口当たりが特徴的です。黒ブドウ品種では主にシラーズが生産され、長期熟成型の濃厚な赤ワインに仕上がります。

■マジー

ハンター・バレーから見て西に位置するワイン産地。マジーはオーストラリア原住民の言葉で「丘の上の巣」を意味するように、標高500m前後の場所にあります。昼夜の寒暖差が大きくブドウ栽培に適した気候で、白ブドウは主にシャルドネやセミヨン、黒ブドウはシラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンなどが栽培されています。

ヴィクトリア州

中小規模の生産者が多く、冷涼な気候を活かした個性的なワインが生み出される産地。ピノ・ノワール、シラーズ、カベルネ・ソーヴィニヨン、シャルドネなどのブドウ品種からワインが造られています。高級シャンパンの「ドン・ペリニヨン」で知られるフランス・シャンパーニュ地方のモエ・エ・シャンドン社が設立した「ドメーヌ・シャンドン」があるのもここヴィクトリア州で、スパークリングワインの名産地としても知られています。

■ヤラ・バレー

メルボルンの北東およそ60kmほどの場所にある、ヴィクトリア州内最古の銘醸地。冷涼な気候から、オーストラリア最高級といわれるピノ・ノワールの赤ワインや、シャルドネを使ったスパークリングワインが有名です。ヤラ・バレーには、フランスのモエ・エ・シャンドン社が「ドメーヌ・シャンドン」を構えており、シャンパンと同じ瓶内二次発酵のスパークリングワインが醸造されています。

■モーニントン・ペニンシュラ

メルボルンから南下したところにあるモーニントン・ペニンシュラには、こぢんまりとしたブティックワイナリーが点在しています。海に囲まれた冷涼な気候で、海風を受けて育ったピノ・ノワールやシャルドネからワインが醸造されます。またペニンシュラ温泉(ペニンシュラ・ホットスプリングス)があることでも有名で、宿泊しながら自然とワインをじっくり楽しむのもおすすめです。

クイーンズランド州

オーストラリアワインの産地としては知名度が低いクイーンズランド州ですが、上質なワインが生産されることで近年注目されています。ワインは主に州南東部のグラニット・ベルトで生産されており、日本ではなかなか流通しない極上のプレミアムワインを生み出す「シロメィ」は特に有名なワイナリーです。

■グラニット・ベルト

ブリスベンから南西約250kmの場所にある、知る人ぞ知る銘醸地。標高は600m~1,000mと高く、国内でもっとも標高の高い場所にあるワイン産地のひとつです。世界的に名高いプレミアムワイナリーの「シロメィ」では、冷涼な気候を活かしたシャルドネの白ワインのほか、ポルトガルで多く栽培されるヴェルデーリョを使った辛口白ワイン、ボルドーが原産のプティ・ヴェルドを使った赤のスパークリングワインなども醸造されています。

西オーストラリア州

生産量は少ないながらも高品質のワインを数多く生み出す銘醸地、西オーストラリア州。主な産地であるスワン・ディストリクトやマーガレット・リバーは温暖で乾燥していますが、「フリーマントル・ドクター」と呼ばれるインド洋からの海風によりブドウ栽培に適した気候条件となり、世界的にも注目される上質なワインに仕上がります。

■スワン・ディストリクト

パースの北側、スワン川に沿って広がるスワン・ディストリクトは、西オーストラリア州でもっとも歴史のあるワイン産地。暑く乾燥した気候で、白ワインでは主にフランス・ロワール地方を原産とするシュナン・ブラン、赤ワインではシラーズやカベルネ・ソーヴィニヨンを楽しむことができます。この産地には西オーストラリア州最大の「ホートン・ワイナリー」があり、辛口の白ワインが有名です。

■マーガレット・リバー

オーストラリア南西部にあるマーガレット・リバーは、国内有数の銘醸地。良質な赤ワインを生み出すことから、フランスのボルドーやイタリアのボルゲリ、アメリカのナパともしばしば比較されます。インド洋の沿岸に広がるブドウ畑では主にカベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラーズ、シャルドネといったブドウ品種が栽培されており、温暖な気候のもと、インド洋からの海風「フリーマントル・ドクター」を受けて芳醇な果実味を持つ力強いワインが生まれます。

■グレート・サザン

西オーストラリア州の最南部に位置する、冷涼で降水量の多い産地。5つの地区があり、それぞれアルバニー、マウント・バーカー、デンマーク、ポロングラップ、フランクランド・リバ一と呼ばれています。特にリースリングとピノ・ノワールは上質なことで知られるほか、シラーズは温暖な産地のものとは異なり、原産地フランス・ローヌ地方に似たスパイスの風味が感じられます。

タスマニア州

オーストラリア大陸の南に浮かぶタスマニア島。小規模でありながらも最高級のワインを生み出すことから、”小さな巨人”とも呼ばれています。島内には主に5つの産地があり、オーストラリア大陸内の産地よりも全体的に冷涼なため、高品質なピノ・ノワールやシャルドネが生み出されます。

■テイマー・バレー

タスマニア島北部に流れるテイマー・リバーの両岸に広がる産地。オーストラリア大陸との間にあるバス海峡から冷涼な風が流れ込むことで、主なブドウ品種であるピノ・ノワールやシャルドネがエレガントな風味へと仕上がります。スティルワインだけでなく、シャンパンと同じ瓶内二次発酵のスパークリングワインも醸造されています。

わずか200年あまりで、世界有数のワイン生産地に

甘口のデザートワインが主流の時代が長く続いたオーストラリアですが、その後テーブルワインの生産が増え、今では世界が認める数々の高級ワインを生み出すまでに発展しました。近年では、農薬を少量またはまったく使わないナチュラルワイン(自然派ワイン)も注目を集めています。時代とともに進化を続けるオーストラリアワイン、その魅力を味わいにぜひ現地ワイナリーへ足を運んでみてはいかがでしょうか。

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