山の斜面に段々に連なる、一風変わった地形の茶畑。青い空と同じくらいの広大さで一面に緑色が溢れるこの「和束」の地に、あるご夫妻が民宿を開きました。
宇治茶の約50%がこの和束町で栽培されるというお茶文化が根付いた場所で、古き良き日本の原風景に囲まれながら、のんびりと過ごせる素敵な宿。
ちょっとしたきっかけで民宿が始まりましたが、今回はそのオーナーのご主人・哲治さんにお話を伺いました。
和束町は京都府の一番下、滋賀県、三重県、奈良県の県境にあります。京都の人でも知らない人もいるくらいです。お茶の生産地として有名で、宇治茶の約50%を和束町で栽培しています。
この和束町の茶畑の特徴というのは、山間に畑を作っているところですね。日本各地に茶畑は沢山ありますが、皆さん、平坦な茶畑が一面に広がっているというのをイメージされるのではないでしょうか。
和束町は、平坦な茶畑ではなく、山の斜面でお茶を作っているんです。真ん中に和束川が流れていて、それを囲むようにして茶畑が広がっていて、山に沿って棚田が連なっているイメージです。
「理想郷」というような意味合いの「桃源郷」という言葉がありますが、茶畑が広がる和束町は「茶源郷」と呼ばれているほどですよ。
いいえ、私は京都市内の出身なのですが、13年ほど前に市内から和束町に移住してきました。主な産業がお茶のため、やはり茶畑を運営している家庭が多いですね。お昼の時間帯でも人にあまり会わないほど人口は少なく、車も通らないので人工的な音は全くしないです。
今も聞こえる音といったら風の音と鳥の鳴き声くらい。本当に自然豊かで、山と茶畑に囲まれた空気の美味しい場所ですよ。
私は年齢70歳、家内は69歳になります。13年ほど前に和束町に移住してきましたが、実は、もともと民宿をやろうと思って来たんじゃなかったんです。京都市内にずっと住んできて、60歳も過ぎる頃どこか田舎暮らしをしたいなとなんとなく考えていました。
周りを見てもそうですが、京都市内の人間でしたら京都府の北部へ移る人が多い気がしていました。しかし、たまたま私達は和束町を知っていて、物件を見に来たら、ちょうどいい平屋に出会ったんです。
はい、移住当初は宿泊施設を運営する予定は全くありませんでした。購入した家をあくまで自分達が住みやすいようにと個人でリノベーションしてたんですね。コツコツ理想の家へと近づけていき、リノベーションが完了したところで、あるきっかけで「和束活性化センター」からお話をいただいたんです。
全国から修学旅行生を受け入れて、農泊体験やお茶作りの体験をさせる企画があったんですね。加えて、海外の旅行会社ともタイアップしてヨーロッパのお客様を和束が誘致して、宿泊させるという事業にもお誘いいただいて。
ありがとうございます。その事業を担当していたスタッフが、リノベーションした後の家を見て「ぜひ民宿をしてください」と正式に依頼をしてくださいました。
2016年くらいですかね。うちは4~5人泊まれるので最初は単発的に修学旅行生や外国人観光客を受け入れていたんです。それが私達にとってもいい経験だったので、正式な民宿の許可を取りました。
特に修学旅行生に対しては、お茶摘み体験をさせてほしい、この土地ならではの田舎料理を提供してほしいなど、リクエストも多くあったので、自分達に出来ることはやろうと正式に動き出した感じですね。
そうですね。その子達には「急須でお茶を飲む」ということ自体が初体験だったりするんです。「お茶はコンビニで買うもの」という認識で、お茶っ葉と急須で淹れた緑茶を湯呑で飲むこと自体が珍しい体験なんですよね。また「おばあちゃん家で見たことある」と言っていた子もいました。
自分達にとってはごく当たり前の光景ですが、子ども達や外国人にとっては新鮮な経験であること、この日本の美しい風景や文化を受け継がなくてはいけないと、改めて思いました。
だから、昔ながらのやり方でお茶を淹れて飲ませるのですが、そうするとやっぱりお茶の甘味とかを感じて美味しいと言ってくれました。
「抹茶」は大体の外国人がご存知なのですが、普通の「お茶」は実はあまり知らない人も多かったですね。味も香りも全く違うので驚く人もいましたが、とても気に入ってもらえて私達も嬉しい限りです。
このように、お茶を中心とする日本の自然や文化の美しさを知っていただくのが、和束町の狙いです。
うちの家内が「篤子」って言うんです。なのでその「篤」の一文字を取ったのと、みんなで「庵」を囲むようにまったりと過ごしていただきたいという願いを込めて「篤庵」としました。
家内は陶芸家としても活動していて教室も月2回程開催しています。
宿泊に来られた方にも体験していただけますので、お気軽にお申し付けください。陶芸は完成までに時間がかかるのでその場でお渡し出来ないのが残念ですが、粘土で作る行程を丁寧に指導させていただきます。抹茶茶碗など、和束ならではの作品を作ることもできますよ。お帰りになってから作品を郵送しますので、出来上がりを楽しみに待っていただく感じです。
陶芸教室と民宿業は出来る限り日程をずらしています。なんせ、私と家内しかいないものですからお客様に行き届いたサービスが出来るよう、いろいろ工夫していますよ。
他のアクティビティに関しては、季節(5月~9月くらい)によっては、新茶摘み体験もできます。提携している茶畑に実際に出向き、和束町の代名詞の景色に囲まれながら摘んでみてください。もちろん、自分で摘んだお茶を飲むことやお土産として持ち帰ることもできますよ。
民宿をやる前に知り合いから「もの凄い美味しい豚肉がある」と言われて、食べてみたら、今まで食べてきた豚肉と全然違うと思って本当に美味しかったんです。
それを、お客様のために取り寄せて夕食のしゃぶしゃぶに出しています。企業秘密なのでどこ産の豚とは教えられないのですが、泊まった方だけが食べれる幻の豚です。
私達と一緒にお話ししながら食べることも可能ですが、もちろんご家族水入らずでゆっくり召し上がっていただくことも可能です。好みやアレルギーなどもお気軽にご相談ください。
うちでは、泊まりに来ていただいた方に色紙を書いていただいているんです。メッセージでも感想でも何でも自由に。
ある時、ヨーロッパのお客様が来た時に母国語で書かれていったんで、内容が分からなくて。後日、たまたま大学のフランス語の先生をやっているという方が泊まりに来た時に、これ何て書いてあるんですかと尋ねたことがありました。
そしたら、「篤庵のご夫婦がとても良かったので、京都に来た時はまた寄りたい。」とのことでした。世界的に有名な観光地ではありませんが、海外の人と通じ合えた気持ちがしてとても嬉しかったです。
また、別の時には活性化センターに「篤庵の正確な住所を教えてほしい」と連絡があった時がありました。一体なんだろうと思ったら、「何かプレゼントを送りたい」ということだったんですね。
自分の国に帰った後も私達を思い出してくれて、かつ贈り物を届けたいとまで思っていただけたこと、本当に心が温まりますね。
そうですね。あと、フランスの写真家で世界中を回っている方がいて、和束町のメインスポットである茶畑の写真を撮ってヨーロッパのコンテストに出したら入賞したという連絡をいただいたことがあります。
そのコンテストの模様を後日送ってくださって、和束町の名前がヨーロッパに広がったということで本当に嬉しかったです。なんだか、篤庵がきっかけになれたようでしたね。
小学生くらいのお子様がいる家族は何組かいらしていますね。
伝統的なやり方でお茶を飲むこと、茶畑に散歩に出かけること自体も貴重な体験ですが、薪ストーブを大変珍しがっていました。大きい斧を持って薪を割る体験もしたことがないとのことで、とても楽しんでいましたよ。
あとは、お年をお召した方々もよくお見えになりますね。やはり、この緑に囲まれた風景、時間がゆっくりと流れるような空気感は心が落ち着くようで、リピートしてくださる方も多いです。
私もfacebookなどをやっていて、今まで泊まりに来たお客様と近況報告したりメッセージを送り合ったりして、コミュニケーションは続いています。
繰り返しにはなりますが、「和束町の景色」はどこにも負けないと胸を張って言い切れますね。
ただ、これは観光地にするために作った景色ではなく、お茶の歴史800年の間に、特殊な地形の中でも茶畑を作るという先代の知恵が作り出した、全国的にも非常に珍しい風景だと思います。山肌を切り開いて茶畑を綺麗に築いていったというこの景色は、何物にも代えがたいですよね。
その壮大な茶畑の風景を見に、ぜひ和束町 篤庵へお越しください。
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いくつものきっかけが重なって、思いがけず民宿を開くことになったご夫妻。今では、国内外のお客様にそのホスピタリティを絶賛されるお宿となりました。ゆっくりと落ち着きがありながら温かい京都弁で和束町の魅力を語ってくださった哲治さん達へ会いに、茶畑の絶景を見に、ぜひ「篤庵」へお越しください。