ワイン生産量は山梨に次いで国内2位、ワイン用ブドウの生産量では日本一を誇る長野県。明治時代から続く長野ワインの作り手の情熱は現在も脈々と受け継がれ、ブランド力を高める取り組みも盛んに行なわれてきました。長野県産ワインは「NAGANO WINE」と呼ばれ、日本国産ワインコンクールで毎年上位に入賞し続けています。
今回はそんな長野の気候特性や産地、ブドウ品種など基礎知識から紹介します!
老舗から新進ワイナリーまで、情熱と夢を持ってワイン造りに取り組む個性的なワイナリーが点在する長野県。まずはどんな産地があるのか、特徴を見ていきましょう。
2010年ごろ、長野県ではワイナリーが急激に増え始めました。地域の特性を生かしてワインと共に地域振興を図るため、2013年には県が「信州ワインバレー構想」を策定します。産地化を発展させるため、県内のワイン産地は桔梗ヶ原ワインバレー、日本アルプスワインバレー、千曲川ワインバレー、天竜川ワインバレーという4つに分類されました。
桔梗ヶ原ワインバレーは県内にワイン造りを根付かせた先駆け的存在で、長野県の中央、塩尻市桔梗ヶ原に位置します。桔梗ヶ原の北部で松本市から安曇野付近に位置する日本アルプスワインバレーは、古くから生食用のブドウ産地として知られています。小諸市、東御市、長野市などに広くまたがる千曲川ワインバレーはブドウ栽培に適した気候が注目され、近年新規参入するワイナリーが増加。天竜川ワインバレーは中央アルプスと南アルプスに囲まれた天竜川沿いの盆地に位置し、日本の固有品種の栽培が盛んです。4つの産地は総称して信州ワインバレーと呼ばれており、協力しながら高品質な長野ワイン造りを追求しています。
また、信州ワインバレー構想では国内外での長野県産ワインのプロモーションのため、世界を意識してワインの呼称を『NAGANO WINE』に統一しています。
長野県の気候はワイン造りに非常に適しています。その1番の理由は降雨量が少ないこと。長野県全体で見ても雨量が少ない土地ですが、ワインバレーが位置する内陸は一大ブドウ産地の山梨県甲府市よりも少ない雨量を記録しています。そのため、日照時間も日本全国の平均と比較して長く、ブドウが良く熟します。
さらに、内陸性気候のため昼夜の気温差が大きいことがもう1つの特徴です。夜に気温が下がると、ブドウが夜間にエネルギーとして消費する糖分が減ります。そのため寒暖差が大きくなればなるほど、昼間に造られた糖分がしっかりと実に蓄積され、良質な甘いブドウができ上がるのです。
長野県で最も多く栽培されている赤ワイン用品種。19世紀末に生食用として導入されたアメリカ原産のラブラスカ種を起源としていて、軽やかで渋み(タンニン)の少ないフルーティーな味わいが特徴です。多くは甘口で飲みやすいワインに仕上がるので、ビギナー向けワインとしておすすめの品種です。
長野県ではコンコードに次いで2番目に多く栽培されている白ワイン用の品種です。コンコードとともに生食用として導入されました。コンコードとアメリカ原産のキャッサディー種を交配して作られていて、十分な甘みと華やかな香りのあるワインに仕上がります。ヌーボーワインの原料として重宝されています。
元々ヨーロッパ系品種だったブドウが中国を渡り、『竜眼』という名前で日本に導入された白ワイン用品種です。古くから長野県善光寺周辺で栽培されていたことで『善光寺ブドウ』とも呼ばれ、長野県と結びつきの深い品種でもあります。生食用と兼用で栽培されており、爽やかな酸味と穏やかな味わいが特徴です。辛口でスッキリとした仕上がりが主流で、和食との相性が良いワインに仕上がります。
1962年創業で小諸に拠点を持つマンズワインが作り上げた独自の白ワイン用品種。シャルドネとリースリングの交配でできています。リースリング由来のシャープな酸味と引き締まった果実味が魅力です。スッキリとした味わいで、素朴な家庭料理にも合わせやすいワインに仕上がります。
信濃リースリングと同様にマンズワインが独自に交配した赤ワイン用品種で、シャルドネと竜眼を交配した『浅間』とメルローの交配種です。小さく色が濃い果粒で、スパイシーな香りとしっかりした酸味が特徴です。穏やかな渋みからくる優しい口当たりで、和食ともよく合います。
信州ワインバレー構想によって4つの地域に分けられ、それぞれの地域特性を生かした振興を図る長野県のワイン産地。全国的な取り組みであるワイン特区(構造改革特区)に認定されることで新規参入のハードルも下がり、ますます盛り上がっています。ワイン特区は、酒類製造免許取得において国が定める最低製造量などが地域限定で緩和され、小規模ワイナリーの参入などがしやすくなっている地域を指します。ワイン特区の後押しもあり活性化が進む長野の4つのワイン産地について、それぞれの特色を見ていきましょう。
千曲川の上流にある佐久市から下流の中野市に周辺に位置する千曲川流域のワイン産地。大手のシャトー・メルシャンなど25軒以上(※)のワイナリーを有します。また大手だけでなく、「はすみふぁーむ」のような小規模個人ワイナリーの新設が続いているのも特徴です。日照時間が長く雨が少ないうえ、水はけが良い土壌という好条件が整い、メルローやシャルドネ、カヴェルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワールなどの欧州系品種も多く栽培されています。新規参入ワイナリーの受け入れが盛んで、特に東御市では『東御ワインフェスタ』を開催するなど官民一体となってワイン造りを盛り上げている注目の産地です。
松本市から安曇野市周辺に広がり、地元産ワインにこだわった山辺ワイナリーなど10軒近く(※)のワイナリーを有するワイン産地。日照時間が長く水はけの良い好条件から古くから生食用ブドウの栽培が盛んな地域です。ワイン醸造もナイアガラ、コンコード、デラウェア、巨峰といった生食兼用品種を中心に始まりましたが、現在では欧州系品種の栽培にも積極的です。
長野県のほぼ中央に位置する塩尻市を流れる奈良井川と、その支流に挟まれた一帯に広がる桔梗ヶ原ワインバレー。日本のワイン産地の先進地として明治時代からワイン醸造が行われています。ワイナリ―は老舗の林農園(五一わいん)や信濃ワイン、本格ワインの先駆者である井筒ワインなどを含む15軒以上(※)。洪水量が少なく昼夜の寒暖差がある長野県特有の気候特性に加え、標高が700mを超えるため比較的冷涼なのが特徴です。
循環バスでワイナリーを巡る『塩尻ワイナリーフェスタ』をはじめとしたワイン関連のイベントが盛んで毎年多くの観光客が訪れます。
長野県南部の天竜川沿いに広がる盆地周辺の宮田村や松川町に位置するワイン産地。天竜川沿いが温暖で、山麓は比較的冷涼な気候です。水はけが良い土地のため古くから果樹栽培が盛んですが、ワイン産地としてはこれからさらなる盛り上がりが期待されるエリアで、現在5軒近く(※)のワイナリーを有します。シャルドネ、メルローなど欧州系品種のほかヤマブドウなどの日本固有種を用いたワインなど多彩な商品が作られています。
※2020年7月時点
長野県では2002年から長野産ワインに対して栽培方法、生産方法、味覚の観点から厳しい審査を行い、認定する原産地呼称管理制度(NAC)が実施されています。味覚の審査はソムリエとして活躍する田崎真也氏をはじめとした日本ワイン界を牽引する審査員が担当し、長野産ワインの品質の向上が進められてきました。ブランド力を高める動きのなかで、ユニークな新規参入ワイナリーも勢いを増しています。
日本を代表するワイン産地の1つである長野県。次に訪れる際には、ぜひワイナリーの見学や試飲をしてみてはいかがでしょうか。